前回、アンケートでは決して見えない「N=1の顧客のネガティブな本音」を、無意識の行動観察から暴き出す泥臭いリサーチ手法(Step1)についてお話ししました。さて、顧客の切実な痛みや願望(インサイト)が見つかったら、次は何をするべきでしょうか?
すぐに機能やスペックの議論に入る?……いいえ、それではまた「誰の心にも刺さらない丸い商品」に逆戻りしてしまいます。
 
次に行うべき最も重要なプロセス。それは、見つけ出した課題を、他社には絶対に真似できない「唯一無二のコンセプト」へと昇華させることです。

「What(凄い機械)」を売ったセグウェイ、「Why(移動の自由)」を売ったLUUP

コンセプトを考える前に、多くの技術者や企業が陥る「致命的な罠」について触れておきます。それは、顧客の課題(Why)を特定する前に、自社の技術(What/How)から入ってしまうことです。

これがいかに危険かを示す、有名な事例があります。
かつて「人間の移動に革命を起こす」と世界中で期待された「セグウェイ」です。その技術力は間違いなく画期的で、「完璧な機械」でした。しかし、社会の中で「誰が、どんなシチュエーションで使うのか」という社会的価値(Why)が極めて曖昧だったため、公道も歩道も走れない「高価なおもちゃ」として終わってしまいました。
 
対照的なのが、近年急成長している「LUUP(電動キックボードシェア)」です。
機体の構造自体はシンプルで、枯れた技術の組み合わせに過ぎません。しかし、LUUPには「都心の交通渋滞をなくす」「駅からのラストワンマイルの苦痛をなくす」という明確な『解決すべき課題』と『社会的意義(Why)』がありました。

セグウェイは「What(凄い機械)」を売ろうとし、LUUPは「Why(移動の自由)」を売った。
この起点の違いこそが、明暗を分けた決定的な要因です。「なぜ作るのか(Why)」という商売の本質が見えないまま、「どうやって凄いモノを作るか(How/What)」に占領されてしまうと、技術としての完成度は高いが誰も必要としない「ガラパゴス商品」が量産される悲劇が起きます。
 
コンセプトはキャッチコピーではない。商品の「設計図の核」である
だからこそ、開発の初期段階で強烈な「コンセプト」を打ち立てる必要があります。
多くの人が誤解していますが、コンセプトとは「商品を売るための後付けのキャッチコピー」ではありません。商品のあり方そのものを規定する「設計図の核(意味)」です。

コンセプトが変われば、商品の姿形は劇的に変わる

例えば、一般的な介護施設のコンセプトは「肉体的な衰えを支援する場」です。しかし、石川県にある「シェア金沢」は、「絆への渇望感に応える」をコンセプトに掲げました。結果として出来上がったのは、ただの施設ではなく、老若男女が共に暮らす活気ある「街」でした。
一般的な幼稚園は「集団活動を学ぶ場」ですが、立川のふじ幼稚園は「遊ぶことが仕事」をコンセプトにしました。結果として、園舎の屋根をぐるりと走り回れるような、建物自体を巨大な遊具として設計するという発想が生まれました。
 
このように、「絆」や「成長」「楽しさ」といった『人のあり方』に軸足を置いた独自のコンセプト(意味)を打ち立てることでのみ、他社との不毛なスペック競争(コモディティ化)から抜け出し、独自の市場を切り拓くことができるのです。


独創的なコンセプトを生み出す「問いの力」

では、どうすれば自社の会議室から、このような独創的なコンセプトを生み出せるのでしょうか?
その源泉は、これまでの退屈な常識を覆す「問いの力」にあります。
「問い」には、「現状に最適化されてしまう」脳に刺激を与え、常識を疑う力を取り戻す作用があります。
ただ「どんな機能をつけるか?」と議論するのではなく、以下のような問いをチームに投げかけてみてください。
目的の問い: 今の目的を単なる「手段」として捉え直し、さらに上位の「新たな目的」を設定できないか?
動詞の問い: 商品を「名詞(モノ)」ではなく、「動詞(行動)」で再定義できないか?
・破壊の問い: 業界で当たり前になっている「破壊すべき退屈な常識」とは何か?
・主観の問い: データではなく、自分たちの体験から生まれる「こだわり」や「偏愛」は何か?
・理想の問い: 私たちが理想とする顧客や社会の「あり方」は何か?

※「コンセプトの教科書」  細田 高広著 より抜粋
 
これらの問いを何度も繰り返し、徹底的に議論することで、見つけてきた「N=1の痛み」が、あなたの組織の美意識(哲学や感性)が色濃く反映された「他社には真似できない唯一無二の解決策」へと進化していきます。ここまでのプロセスを経て初めて、不毛な「スペック競争」から「意味(コンセプト)の創造」へのシフトが完了するのです。
 
優れたコンセプト(言葉)ができあがりました。
しかし……言葉だけでは、商品は作れません。
次回は、この抽象的なコンセプト(右脳・感性)を、どうやってエンジニアやデザイナーが理解し、実装できる「具体的な商品の構想図(左脳・論理)」へと翻訳していくのか。

私が実践してきた「未来のプレスリリース」という究極の逆算思考についてこの後お話しします。