今回のテーマは、多くの日本の大企業や優秀なチームが陥っている「深刻な病」についてです。
優秀なメンバーが集まり、真面目にデータを分析し、論理的に正しい計画を立てている。それなのに、なぜか画期的な商品は生まれず、現場からは疲弊の声しか聞こえてこない。
あなたの組織でも、こんなことが起きていませんか?

真面目な組織を苦しめる「システムのエラー」

かつての日本企業は、「欧米」という明確な正解を、いかに早く・安く・高品質に作るかという『オペレーションの最適化』で世界を席巻しました。言い換えれば「言われたことを正確に効率よくこなす」ことで成長してきたのです。しかし、市場が成熟し「正解のない時代」になった今、このかつての成功法則が最大の足かせとなっています。
断言します。新規事業がうまくいかないのは、現場の個人の能力不足ではありません。「生産性至上主義」という古い思考回路(OS)を、新しい時代に無理やり適用しようとしているシステムのエラーなのです。

会議室が生む「誰も傷つかないが、誰も喜ばない」結論

このシステムエラーが最も顕著に表れるのが、企画会議の場です。
会議室では、「スペック・価格・市場規模」といった『数値化できる価値』のみが共通言語となります。するとどうなるか。「この機能はもっと足した方がいい」「他社にはこの機能がある」と、全員が納得するロジック(正論)が積み上げられていきます。

結果として出来上がるのは、社内の各部門から反対が出ないように角が取れた、「誰も傷つかないが、市場では誰の心にも刺さらない丸い商品(コモディティ)」です。


「共通体験の欠如」が価値をズラす

本来、商品やサービスの本当の価値は、機能そのものではなく、それを使う「顧客(ペルソナ)」によって全く変わります。
例えば、「新しい洗濯機の開発」を想像してみてください。
技術者ばかりの会議室では、まず「いかに洗浄力を上げるか」「乾燥時間を短くするか」が議論の中心になります。しかし、マンション暮らしで赤ちゃんがいる母親にとって、最も重要な価値は「洗浄力」でしょうか?
「苦労してやっと寝かしつけた赤ちゃんが、洗濯機の騒音で起きてしまったら、私の一日の自由時間がなくなってしまう…」
彼女にとっての最高の価値は、洗浄力ではなく「圧倒的な静粛性」かもしれません。

作り手と使い手の間にこの「共通体験(切実な痛み)」がないと、どれだけ高性能な機能を作っても、ピントのズレた商品になってしまいます。

尖った企画を殺す、あの「魔法のキラーフレーズ」

だからこそ、新規事業では「誰の、どんな痛みを解決するのか(ペルソナ)」を極限まで絞り込む必要があります。
しかし、ここで再び会議室の論理が立ちはだかります。特定の誰かに向けたエッジの効いた尖った企画を出しても、経営層や管理部門から必ずこう問われるのです。
「で、そこにどれだけの市場規模があるの?」
この一言で、少数の(しかし熱狂的な)顧客の切実な声はかき消されます。そして「もっとターゲットを広げよう」と機能が足され、結果的に顧客不在の「丸い商品」に成り下がってしまうのです。


ビジネスは難解なパズルではなく「プレゼント」である

では、どうやってこの閉塞感を打破すればいいのでしょうか。
必要なのは、個人の主観的な想い(違和感や偏愛)を、どうやって「組織が納得する形(ビジネススキーム)」に変換するかという『具体的な翻訳技術』です。
ビジネスとは本来、難解なロジックを組み立てるパズルではありません。大切な誰かを想い、その人が喜ぶ姿を想像して届ける「プレゼント」のようなものです。
そのプレゼントを、エビデンス至上主義の組織で「形」にするためには、以下の3つが必要です。
顧客のBefore(今の苦痛)/After(理想の未来)のストーリーを明確にする
・Afterを実現するための課題とリスクを正直に洗い出す
・それらをどう乗り越えるか、開発プロセス全体(地図)を経営層に見せる

…と、ここまでは一般的なビジネス書にも書いてある「正論」です。
しかし、現場で血を流している皆さんからすれば、「それが出来ないから苦労してるんだ。あの頭の固い役員をどうやって説得すればいいのか教えてくれ」というのが本音だと思います。

私自身、700万台の商品を開発する中で、10人中9人が反対する会議を何度も経験してきました。だからこそ、このnoteでは綺麗な正論以上の実体験をお伝えします。たとえば、
スペックではなく体験を定義する「未来のプレスリリース」の書き方
反対派の役員に自らハンドルを握らせる「松竹梅の先回り提案」
エビデンスの信者を黙らせる、したたかな「潜水艦戦術」と「MVP検証」
 
次回以降、こうした「想いを組織の納得に変換する、泥臭い実務のテクニック」を一つずつ紐解いていきます。

「自社の技術はあるが、顧客の体験価値への変換ができていない」「経営陣との合意形成でいつも立ち止まってしまう」。
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