先日、東京都知財総合センター主催の講演会へ足を運んだ。 基調講演の主役は、評論家の寺島実郎氏である。

この方はまもなく80歳を迎える。しかし、政府の諮問委員会に率先して参加し、現場でバリバリと発言を続けている。枯れるどころか、エネルギーが有り余っているのではないか。 私はかねてより、この「知の巨人」のファンだ。

彼が国際情勢を語るとき、単なる政治経済の枠には収まらない。その国の宗教、血塗られた歴史、そして人々のドロドロとした「心情」まで深掘りし、世界の本質を鷲掴みにしようとするからだ。

さて、今回は「知財」のイベントである。 「特許戦略の未来」や「知的財産権の法的課題」といった堅苦しい話を寺島流でどう料理するかを楽しみして席についた。が、マイクを握った寺島氏の口から飛び出したのは、いつものテレビでお馴染みの論調。「日本経済の衰退」と、その冷徹な分析であった。

「知財の話は?」と一瞬思ったが、氏はお構いなし。 参加者全員に配った『寺島文庫』の雑誌にある膨大なデータを突きつけながら、日本の現在地をメッタ斬りにしていく。知財とは直接関係ないように見えて、実はその土台となる国力の話なのだから、的を得ていると感じざるを得ない。

特に膝を打ったのは、「現代こそ、経営や社会に『人の本能』が色濃く出る」という指摘だ。 我々日本人は、八百万の神も仏もキリストも受け入れる、極めて寛容で優れた「共創思想」を持っている。だが、一歩海を渡ればそんな常識は通用しない。宗教対立や民族の怨念が渦巻く世界で戦うには、平和ボケした頭を叩き起こし、世界史と宗教を学び直す必要があるのだ。知財を守る以前に、人間を知れということか。

嵐のような講演が終わると、寺島氏は飾り気のない人柄そのままに、あの大きな体を揺らして「そそくさ」と退場していった。拍手に応えるでもなく、次の戦場へ急ぐかのように。 その背中は、どんな教科書よりも雄弁に「日本人よ、もっと勉強しろ」と語っているように見えた。

知財のノウハウ以上に、もっと根源的な宿題をもらって帰ることになった。

これだから、リアルな講演会はやめられない。