やれやれ、またAIか。

正直に白状しよう。CEATECもオートモーティブジャパンも、最近の展示会はAI企業の独壇場で、ハードウェアの主役たちはすっかり肩身が狭そうだった。「未来はもちろん大事だが、少しは寂しいじゃないか」なんて。だから、「JAPAN MOBILITY SHOW 2025」に向かう足取りは、ぶっちゃけ半信半疑だった。

ところが、会場に足を踏み入れた瞬間、その疑念は木っ端微塵に吹き飛んだ。

「……うわ、なんじゃこりゃ!」

人、人、人。熱気、光、そして咆哮を待つ斬新なコンセプトカーやジェット機、ドローン。AIが静かに計算する未来とは真逆の、五感を揺さぶる「動くモノ」への原始的な欲望が、そこら中に充満している。スケールが違う。まさに、日本の「ものづくり魂」のオンパレード。一気にテンションが上がってしまう。

でも、そこは経営コンサル。冷静に(努めて冷静に)ブースを観察する。すると、見えてくるのは残酷なまでのコントラストだ。「未来は俺たちが作る」と目を輝かせる企業と、巨大な変化の波に戸惑い、過去の栄光に少しだけ迷い込んでいる企業。

業界が抱える問題は山積みだ。若者は海外旅行に夢中で、国内ドライブは下火。レンタカーやシェアリングが充実しすぎて「マイカー」の必要性が薄れ、トドメに維持費が高い。まさに三重苦、いや四重苦だ。

この「逆風」という名の暴風雨の中、我らがニッポンのメーカーたちは、どんな「答え」を用意してきたのか? ここから、各社の「クセ強め」な回答をご紹介。

トヨタ先生:「未来も過去も、全部いただきます」

さすがは王者。子供向けに「卵カプセル?」と見間違うほどキュートなビーグルを用意し、幼少期からの英才教育(トヨタファン育成)に余念がない。かと思えば、復活の「センチュリー」や新型レクサスで「どうだ、欲しいだろう?」と大人の物欲を直球で刺激してくる。果ては「もはや動くリビング」な高齢者向けモビリティまで。過去も未来も、富裕層も庶民も、子供もシニアも、全部トヨタがいただくぞ、という気迫がすごいです。

ホンダさん:「陸は狭い。空も行くぞ」

この会社は、陸・海・空、すべての空間を制覇する気満々だ。

「え、小型ジェットの模型? 人が乗れるやつ? 本気ですかホンダさん!」と、ブースで興奮したのは私だけではない。もちろんクルマもクール。彼らの辞書に「常識」という文字は無いらしい。そのぶっ飛びっぷり、大好きです。

ヤマハ&スズキ:「オタク」の美学、ここに極まれり。

この2社には、思わず「渋いねぇ!」と声をかけたくなる。 ヤマハは頑として4輪に背を向け、あえて不安定な3輪に「遊び心」という名の魔法をかける。「操作する楽しさ、わかる人だけわかればいい」――そんな職人の声が聞こえてきそうだ。シビれる。  一方のスズキは、「日本の未来」を誰よりも真剣に見つめていた。彼らが提示したのは、究極の電動車いす。「どんなに年を重ねても、移動の自由は渡さない」という、静かだか、とてつもなく熱いメッセージだ。こういう「一点突破」オタク、好きです。

海外勢:「黒船、でかくない?」

そして、忘れてはいけないのが海外勢だ。ドイツ車は相変わらず優等生だが、それ以上にヤバいのがBYD。デザインが、もう、普通にカッコいい。日本のデザイナーも欧州の風も取り込んで、「え、これ中華?」なんて言ってる時代はとっくに終わった。耐久性以外は、もう勝負がついているかもしれない……。特に今回見た「軽」、あれは日本のメーカーも冷や汗モノだろう。ヒュンダイも頑張ってはいたが、BYDの勢いには少し押され気味に見えた。

マツダ、日産は……うん、良いクルマだ。良いクルマなんだけど、今回の「お祭り」の中では、少しだけ「ワクワクの炎」が小さく見えてしまったのは私だけだろうか。

会場を埋め尽くす人々は、みんな少年の目(少女の目)をしていた。そう、理屈じゃないのだ。人は、ただ「動くモノ」が大好きで、それを見るとアドレナリンが出て、どうしようもなくワクワクしてしまう生き物なのだ。

「クルマなんてもう、ただの移動手段でしょ?」 そんな冷めた意見を打ち壊すクルマメーカーの逆襲が日本からスタートした。

JAPAN MOBILITY SHOW 2025は、スペックや効率(それも大事だが)だけじゃない、「感情」という名の燃料をどうやって人の心に注ぎ込むかの戦いだった。そして、そういう「エモい」ものづくりこそ、我々日本人が一番得意な分野だったはずだ。

やれやれ。すっかりエンジンがかかってしまった。 クルマの文化は、まだまだ進化する。日本のものづくり、まだまだ世界をワクワクさせられるじゃないか。そう確信できた、最高に「アツい」一日だった。